ネロ(Illustration:マスダ) 暴君といえばネロ、ネロといえば暴君というぐらいに悪名高いローマの皇帝ネロ。…なんだけど、近年ネロ像の見直しが行われているのをご存じだろうか。
ネロの悪名を裏付けるのは、なんと言っても「ローマの大火」のネロ放火説と、パウロ・ペテロの殉教を含むキリスト教徒の迫害なんだけど、放火説はどうも『逸話』くさいし、キリスト教の迫害も、少なくともディオクレティアヌス帝なんかにくらべれば可愛いもんだ。逆に、ネロが少なくとも帝位前期には哲人セネカに師事して善政をし、民衆にも人気が高かったことは確かなようなのである1
もちろん、後半生には目に余るモノがあり、母親や妻の殺害、師であるセネカを自殺に追い込むなど、暴虐を尽くしたのも確か。
しかしながら、母親に関してはちょっと「親も親だよなあ」と肩を叩いてあげたくもなる。彼の母アグリッピナは権力に執着を持つタイプの良家の出身で、美貌を利用して追放の身から后妃にまで上り詰めると、夫を毒殺、実子ネロを皇帝につけちゃうのだ。ところが、ちょっとネロが自立し始めて言うことを聞かなくなったら、継子を可愛がりはじめ、その子が死んでしまうと(ネロに殺されたという説も)またもやネロに帰ってくる。要するに彼女、自分が権力を握るために言いなりになるお人形として実子を扱ったわけで、これじゃあネロがヒネちゃうのも無理ないかもしれない。
ネロが「善人だった」という気はないけど、少なくとも周りが上手に対処すれば「善政ができた人物」だったんじゃないのかな、なんて思ったりする今日この頃である。

  1. スウェトニウスの『皇帝伝』には放火の件は一切触れられていない。不道徳・淫猥な面も強調されているが、一方で政権前期の寛大さは際だって描写されており、史料批判していくと「案外普通のおぼっちゃん」という雰囲気が浮き彫りにされる。 []