『ナンバン』と聞いたとき、アナタは何を思い出すだろうか。
トウガラシ?それとも鴨ナンバン?こういうサイトを見ている人なら、やっぱり「ナンバン渡来」かな。
勿論『ナンバン』は『南蛮』のことである。
ところで、『南蛮人』というと、江戸時代あたりの外国人、とくにポルトガルやスペインなどの西欧人をイメージしちゃうヒトはいないだろうか?そんでもって「スペインもポルトガルも南じゃなくて西にあるのに、なんで『南蛮』なんだろう?」と思ったりしていないか?
この辺は日本史の範疇なので、ワタシよりよっぽど読者の方の方が詳しいと思うけど、もともとは南蛮とは東南アジア辺りのことだ。しかし時代を経て、東南アジア一帯がスペインやポルトガルの植民地になってしまったので、自然と、そういう西洋人がもたらした文化・技術一般をも『南蛮』と呼ぶようになり、更にイメージとして南蛮人=西欧人という図式になってしまったわけだ。
しかしながら、東南アジアを『南の蛮人』呼ばわりしていた日本であるが、もともとは日本人だって『東夷』=『東の未開人』と呼ばれてバカにされていたのである。
いったい誰に?
3000年の歴史を誇るお隣の国・中国様にである。
国の正式名称にも入っている『中華』という言葉は、目で見た印象そのままに『世界の中央に位置する文化の開けた国』の意であって、もともと中国人自身が自分達の国を誇って呼んだ名前である。当然自分達が世界の中心であり、文化の中心であるから、周りにいる連中は彼らにとってはみ〜んな野蛮人であり未開人なのである。
そしてご丁寧に、彼らは東西南北の蛮人どもに、ステキな名前を付けてくれる。南蛮、東夷、北狄(ほくてき)、西戎(せいじゅう)。
全部「○の野蛮人」の意の蔑称だ。
そういう「自分達が世界の中心であり最高に偉いのだ」という考え方を、ここから『中華思想』と呼ぶ。もちろん、現在の中国が国名に中華を使っているからといって、まだ中華思想を引きずっているわけではない。そういうヒトも中にはいるかもしれないけど。
この中華思想は、まだ『外国』と呼ばれる範囲が人々の中でとても小さかった頃、つまり外国との交渉が少なかった時代に生まれた思想である。特に三方を機動的な遊牧・狩猟民に囲まれた、実り豊かな定住農耕民である中国は、たびたび遊牧民の侵入・略奪に悩まされた。
突然やってきて、殺し、奪い、壊して去っていく彼らを『蛮人』呼ばわりしたくなる気持ちは分からないではない。そんでもって彼らはその『蛮人』の向こうにまだ未知の世界があるとは夢にも思わないのだから、この世で最高に理性的なのが自分達だと思いこんでも仕方ないことである。
こういう思いこみは、個人レベルに縮小すれば、いくらでも、現在でもあちらこちらで見られる現象だ。ある程度分別がある人は口にしないだけで、心の中では「ちっ。この夷蛮戎狄どもめ」と思っているかもしれない。危ない危ない。
しかし、最近は『中華思想』だって使いようによっては悪くないという気がしている。自分が中心で『華』であると思うことだって大切だと思うのだ。イケナイのは『夷蛮戎狄』と周囲を蔑視することで、自分が『中心の華』である(と思う)こととは違うのだ、って。
ただ、方向を間違えると、「中華」の「華」が「鼻」につくようになって、ただの「自己中」になっちゃうけどね。
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南蛮といえば、トウモロコシのことです。
岐阜県の郡上市では、「南蛮きび」と言います。
他の地方ではどうなのでしょうか?