世界史をやっていて、みなさんが「世界史ってヤだなあ」と思う理由の一つに「せっかくダイナミックな歴史の流れを学んでいるのに、時々ひょっこりと『○○の意義』なんて項目が出てくること」があるんじゃないだろうか?
しかもまた、その「意義」が判りにくい。
たとえば、第2次ゲルマン人大移動の別名を持つノルマン人の移動について、その歴史的意義の一つに「封建社会成立を促進した」というものがある。ワタシは高校時代、ついにこの正確な意味を理解することなく、とりあえずテストではこのまま書いて、正解をもらっていた。
大人になってようやく、この本当の意味ってなんなんだろう…と考えた。
まずワタシの場合、「封建社会」そのものが理解できていなかったのだが、これは中世ヨーロッパの特徴とも言える状況だ。弱い王権と強い諸侯、が合言葉で、国もあるし王もいるんだけど、実際には地方地方で有力諸侯が小さい国を運営している、そういう感じ。
今で言うなら、各都道府県知事が実際の政治を全て行っていて、国会とか総理とかは「いるだけ」って感じなのだ。そりゃ知事選も盛り上がるに違いない。
ともかく、そういう中世ヨーロッパ特有の社会制度がノルマン人の移動によって促進されたというのが、教科書のおっしゃる「ノルマン人移動の意義」なのである。これはどういうことなのか?
実に遠回りな話だけど、この出発点は、ノルマン人・バイキングが使用していた船の構造にある。
ワタシと同年輩以上の方なら、小さなバイキング・ビッケという、海外版一休さんみたいなアニメを覚えていると思うけど、それに出てくる船、思い出せるだろうか?一本の太く長く大きな木が、船の中心を船首から船尾までビシッと通っている、これを「竜骨」といい、船首にはカッコイイ彫刻が施されていたりする。
この、竜骨を持つバイキングの船が、非常に画期的な「航海術」を生んだのだ。
それまでのヨーロッパ人が使用していた船は、「箱形」というヤツで、要するに木のミカン箱を水に浮かべたようなものだ。当然ながら使っている木の量も相当だし、ちょっと物を積むと、喫水(船を水に浮かべたとき船体が水につかっている深さ)はかなり深くなる。だから、何十人が乗る船ともなれば、相当深い場所でなければ船は使えなかったのだ。
ところが、竜骨を持つバイキングの船は、喫水が浅く1、幅が狭くても安定するため、それほど深さも幅もない河川でも航行可能だった。そこでバイキングはえっちらおっちら川をさかのぼり、適当な内陸の村にいきなり船をつけて、「帰ってやるからお金をよこせ」と脅したり、強奪をしたりして荒稼ぎしたわけだ。
いくら村が内陸にあっても、川がある限りバイキングの襲撃はいつやってくるともしれない。もし襲撃があったらどうするのか?誰に頼ればいいのだろうか?
自分たちを支配しているという噂の「王様」だろうか?しかし、王様は「いる」とは聞いているけど、どこにいるのか、何をしているのかよく判らない。バイキングがきたときにそんな人を捜していても間に合うわけがない。
だったら「隣村の丘の上」にいるという噂の「領主様」に頼ればいいんじゃないか?お金も土地も人もいっぱい持っているそうだから、きっと助けてくれるに違いない。ああアリガタや、アリガタや…。
要するに、神出鬼没のバイキングに対抗するためには、遠くで何かやってる王様なんかじゃなく、近くにいる有力者が頼られたわけなのだ。
遠くの親戚より近くの他人、要するにそういうことだ。
バイキングはいつくるかわからない、だから有力者にいつもツナギをとっておく、そうこうするうちに、いつのまにか村は「有力者のモノ」になっていた…。
だから「ノルマン人の移動は西欧封建制成立を促進した」と言われるのである。
極端な話、中世ヨーロッパの封建制を作ったのは、バイキングが発明した一本の「竜骨」なのである。なんだか劇的な話じゃないだろうか?

  1. 8人乗りのボートくらいのものだと、喫水60センチくらいらしい []